沿岸ツーリングの魅力
「海沿いばかり走ってると飽きない?」
そんな素朴な質問も寄せられる管理人の沿岸ツーリング。
2014年の東北太平洋側からスタートし、毎年一回、夏の終わりに少し長めの夏休みをとって沿岸ツーリングを行っています。
●東北太平洋側沿岸ツーリング
●北海道一周沿岸ツーリング
●九州一周沿岸ツーリング
●東海道沿岸ツーリング
●四国・瀬戸内海沿岸ツーリング
●日本海沿岸ツーリング
もちろん飽きたりすることはありません。
むしろ回を重ねるごと、次第にはまっている自分がいます。
「海岸線を走る」という単純な沿岸ツーリングのどこが魅力なのか、まとめてみました。
日本の海岸線風景は変化に富んでいる!
沿岸ツーリングの魅力の筆頭はやはりこれ。
日本の海岸線の地形は非常に複雑。
まるで映画のセットが切り替わるように次々と変化してゆき、飽きるどころじゃありません。
例えばここ。
水着の子供たちが浮輪を腰に走り回る海水浴場、無数のサーファーが並んで波待ちする海面。
長い弓なりの砂浜がどこまでも続くかと思えば・・・
そのすぐ南には、切り立った絶壁がにょきにょき伸びる荒々しい風景も。
ちいさな入り江に張りついた漁港の細道は、車2台がすれ違うのも大変なほどです。
・・・と思いきや、さらに南下すると突如現れる快走ロード。開放的で南国情緒も感じられる道の両側には巨大なホテルやリゾートマンション群が建ち、お洒落なレストランの前には、都市部からやってきた車がたくさん停まっています。
以上はどれも千葉県房総半島の太平洋側の海沿いルート風景です。バイクで走ればわずか数時間という短い距離の中でも、見える景色は目まぐるしく変化します。こんなバリエーションに満ちた海岸風景を目で吸収しながら走行していると、ずっとワクワクし通しになるわけです。
岬を回り込んだ途端、穏やかだった海面が一変、防波堤に白波打ち付ける荒々しい海になって驚かされることもたびたびあります。
一方、まるで湖のように穏やかなリアス式海岸の入り江がどこまでも続く道もあります。
海ばかりではありません。
険しい山が海岸ぎりぎりまで迫り出す地形では、切り立った崖の上の山道を延々と走行します。
くねくね道の連続だと少々疲れますが、うっそうと茂る樹々の間から時折見える海の青さに、思わず息を飲んでしまったり。
もちろんのどかな道ばかりではありません。
日本の大都市のほとんどは大きな貿易港を擁する臨海都市。埋立地が広がり高架道路が曲線を描く工業地帯も沿岸ツーリングでは走ります。
「いつまでも走り続けたい」
そう思わせ前進させる力が、沿岸ツーリングにはあります。
なお私の「沿岸ツーリング」は、すべて厳密に海沿いの道だけを走っているわけではありません。埋立地や川の下流付近などは橋の位置の関係で内陸部の幹線道路を走ることも多々あります。またリアス式海岸では、すべての半島・岬をまわると本当に長距離になってしまうため、端折っている場所も結構あります。そのあたりは、沿岸にこだわりつつ、こだわりすぎないよう、適度にユルく走っています。
「沿岸縛り」の受け身スタイルだから出会える風景
バイクでソロツーリングする醍醐味のひとつは、自分が行きたい場所どこへでも、身軽に気軽に走っていける「自由さ」。長期にわたるツーリングなら、毎朝「今日はどこに向かおうか」など悩みながらルートを考えるのも楽しいものです。
ただ沿岸ツーリングの場合はちょっと異なります。
実は自由度はあまりないのです。
というのも、「沿岸を走る」という縛りをかけることで、基本的なルートが決まってしまうからです。毎朝悩むのは単に「どこまで行くか」ということ。ルートの選択肢はかなり限られます。
でも、
「だからこそ出会える風景」
もたくさんあるんです。
沿岸ツーリングでは、自分で選び取ったわけではないルート上で、取捨選択のないあらゆる風景が飛び込んできます。観たい風景・走りたい道・目的地を定めたツーリングももちろん楽しいのですが、こうした言わば
「受け身スタイルのツーリング」
も、次にどんな風景が展開するかと期待に胸膨らませながら前進するエキサイティングなもの。
「え、そこ地元だけど俺も行ったことないよ」
「何もなかったでしょ」
後でツーリングで訪れた場所を話題にした時、こんな反応もぽんぽん飛び出します。
実際、沿岸ツーリングをするのでなければ、絶対一生訪れることはなかっただろう場所だらけです。メジャーな観光スポットや行楽施設、ライダーに人気の絶景ロードなどがあるわけではない、いわば地味な場所がほとんど。車とすれ違うこともほとんどない道、繰り返される入り江とトンネル、小さな漁港に小さな海水浴場。地元の人しか知らない初めて目にする地名の連続。
「そんな場所にこそ絶景がある」
「日本の失われた原風景がそこにあった」
なんて言葉が続くことを予想した方もいるかもしれませんが、違います。
別に目を奪われるような絶景も、感動に立ちすくむ特別な風景もなくたっていいんです。むしろ特別何かがあるわけではない、自分の生活圏の外にある日常風景の中を淡々と走っていること自体が何よりも楽しいのです。ワクワクするのです。
バイクを停めて休憩していると、地元の人がナンバープレートを覗き込んで声をかけてくることもよくあります。キャンプ道具を積んだ赤いバイクは、観光客もドライブ・ツーリング客もほとんどいない集落では目立つのでしょう。
「珍しいな、女性ひとりでツーリング?」
「はい、海岸沿いにずっと走ってるんです」
「ああ、それでここに来たんだ~」
ここは何もないとこだよ、そう言われることも度々です。
でも当然ですが、何もない場所なんて地球上のどこにもありません。
自分が走りながら見て新鮮に感じた風景や建物、橋や港、立ち寄ったスーパーで売られていた珍しい魚の話などすると会話も盛り上がります。そんな小さな交流もツーリングの楽しい思い出になります。
沿岸ツーリングは「線」のツーリング。
しかも一筆書きルートなので、もう一度走ることはないだろう道。
その瞬間ごとの風景を目に焼き付け、記憶・記録しながら日本という大きな島国の外周をなぞって走る沿岸ツーリング。そんな一期一会の体験も、自分にとっては大きな魅力のひとつです。
海岸線をコンプリートする達成感
沿岸ツーリングの元々のきっかけは、東日本大震災です。
2011年から翌年にかけ岩手・宮城・福島の津波被災地を何度か訪れ、がれき撤去や除染などのボランティア活動に参加しました。当時はまだ鉄道も復旧していない地域が多く、内陸部に作られたボランティア拠点から毎朝バスやワゴン車に分乗して海沿いの現場まで行き、また戻ってくる繰り返しでした。
「点」でしか知らない沿岸を「線」で走りたい。
2013年にバイクの免許を取得し、2014年に人生初めてのバイクを入手した後、ツーリング先として最初に思いついたのが東北太平洋側の沿岸ルートでした。岩手の宮古や大槌町、宮城の気仙沼に雄勝、そして石巻。それぞれ何度か訪れていた場所ですが、自分の中で一本の線でつながったのは大きな変化でした。最終日に茨城の海沿いの幹線道路を南下しながら思いました。
「このままずっと海岸線を走り続けたい」
そして
「いつか日本一周をコンプリートしたい」
という夢が突如湧きおこったのです。
2017年10月現在、青森の八戸から東北・関東・東海・関西を経て神戸まで、そして北海道と九州の沿岸ツーリングを終えました。北海道も九州も未踏の地だらけですが、少なくとも海岸線だけはぐるり一周しています。それは自分の中でちょっとした達成感となっています。
残すは四国と瀬戸内海、そして本州日本海側のすべて。
あと2~3年はかかりますが、最後ぐるっと日本を一周して初回ツーリングの出発地・八戸港に到達した時、自分は一体どんな思いに包まれるんだろう。待ち遠しくもあり、まだまだ先延ばししたくもあり、なんだか複雑な気分です。
<おまけ>初心者にとって走りやすい
実はもうひとつ、こんなメリットもあるんです。
「海沿いを走ればいい」
というのは、自分のような初心者ライダーにとって結構楽ちん。
さほど地図をしっかり頭に叩き込まなくてもいいし、どのルートをとるべきか悩む必要もなく、走ることに専念できるのです。道に迷ったり大幅にコースを外れるようなこともまずありません。
同じくコンプリート系のツーリングで、「日本100名城」を攻略しながら日本中を走っているバイク乗りの方とお会いしたことがあります。同じ県内の城でも道でダイレクトにはつながっておらず、どうまわるのが最も効率的か、アプローチ方法を考えるのが至難のワザなのだとか。もちろんその苦労こそが面白さでもあるのでしょうが、話を聞きながら「自分には無理だな」と思ったものです。そこは向き不向き、性格の違いかもしれませんね。
また海沿いの道、特に半島の外周道路は信号が少ない道も多く、景色を満喫しながらのんびりゆっくり走るには最適です。
「バイクの免許取ったけど、ツーリング先を決めかねている」
そんな方はモノは試し。
近くの半島をぐるり一周したり、岬まで海沿いを走ってみるというのはどうでしょう。
ルートを悩むこともなくただ無心に海沿いの道を走る気持ちよさがそこにはあります。