房総半島素掘りトンネルナビ
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房総半島に数多く残る「素掘りトンネル」。林道にひっそり佇むトンネルはまるで別世界へといざなう入り口のよう。素朴なトンネルの内壁には美しい地層も浮かび上がり、ツーリング目的地としても人気です。主要な素掘りトンネルへの行き方やおススメルートなどをご紹介します。

長南町の築200年以上の古民家敷地内の素掘りトンネル群

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茂原市に隣接し、山間にのどかな里山風景が広がる長生郡長南町(ちょうなんまち)の古民家敷地内に残る複数の素掘りトンネル・洞窟群。江戸時代に庄屋としてこの一帯を治めていた武田家のもので、母屋の建て替えは文化2年(1805年)。山を切り開いて造成された敷地には、以前は食糧貯蔵庫や風呂場として使われていた洞窟、横井戸、敷地に隣接する馬小屋への通路として掘られたと思われるトンネルがあり、さらにそれらのトンネルの下には、山からの水を流すための水路が掘られ、「トンネル on トンネル」という非常に珍しい構造に。

また古民家から徒歩10分程度の場所にも年貢米を庄屋宅に運び込むためのルートとして作られた素掘りトンネルが、非常にきれいな状態で残っている。

どちらも私有地だが、ルールを守り近隣に迷惑をかけない形であれば、敷地内の素掘りトンネルの見学や庭園利用が許可されている(2023年7月5日時点)。

概要

住所千葉県長生郡長南町千田
全長
建設時期おそらく江戸時代
駐車場(※1)あり
トイレあり(※2)
マップコード130 553 889*60

※1 長屋門(道路に面した大きな門)の東側にある平屋の集会場建物脇に停めてOKとのこと(武田さん私有地)
※2 庭の一角(母屋の東側)に作られた屋外トイレを利用可/武田さんのご厚意なのできれいに利用しよう

アクセス

圏央道・茂原長南ICから約2.5キロ/JR外房線茂原駅から路線バス(16分)豊栄農協前バス停下車徒歩12分(1キロ)

訪問レポート

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今回、私有地内の素掘りトンネルを見学させていただけるということでお伺いしたのは、長南町千田地区の古民家。江戸時代にこの一帯を治めていた庄屋・武田家の居宅だったこの建物は築200年以上で、長屋門だけでこの迫力!

実は今、現オーナーである武田さんのご厚意で、敷地内に入ってこの門や建物を外から見学したり、庭園でくつろぐことができるようになっている。

上の写真をクリックして、「Welcome」と書かれた案内ボードを見てもらえたらと思うが、長らく無人の空き家だったこの建物を10年以上かけて自力でリノベーション&復活させた武田さんが、近隣の人や旅人にここを「オープンリフレッシュガーデン」として開放してくれているからだ。

長南町武田オープンリフレッシュガーデン(子供と大人のリフレッシュの庭)

怪我をしないように・仲良く・良識でご利用ください
お花はありませんがリフレッシュの庭です
出掛けていても、お入りください

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草もきれいに刈られた広い庭園。
そして築200年以上という母屋は、もともとは茅葺屋根だったのだろうか。屋根も本当に立派だ。草刈り機と車がなかったら、まるで江戸時代にタイムスリップした感覚にすらなる。

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でも今回は、古民家ではなく「素掘りトンネル」がテーマ。
実は写真に2つ登場しているのだがわかるだろうか。長屋門の左端のちょっと先だ。

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さっそく武田さんに、敷地内の建物や素掘りトンネルの配置などを説明していただく。
蔵と母屋の東側(図では右)に、食糧貯蔵庫や風呂などとして使っていた素掘りの洞窟が3つ。

さらに敷地右手に作られた馬小屋に至る素掘りトンネルが2本。

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点線で描かれているのは水路。建物背後の山から出てくる水を建物を迂回させて流すもので、東側の水路は3つの洞窟と2つの素掘りトンネルの下に掘られている。西側のトンネルも長く、こちらは地上の高さに作られているので、開口部もよく見える。

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まずは横井戸。
房総半島の素掘りトンネルで多い、将棋の駒と同じような五角形の掘り方「観音掘り」になっていて、形もきれいに残っている。

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天井には堀り跡と思われる溝もたくさん。

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その隣は、昔冷蔵庫の役目を果たしていた食糧貯蔵庫の洞窟。こちらも左右対称の美しい五角形の形が残り、天井の中央と左右両端の溝もくっきり。掘ってから相当長い年月が経過していると思うが、劣化も天井落盤もしていないのがすごい。

ちなみに写真に写っている草刈り機は現役だ。

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洞窟の右側の壁には穴が開いており、左を見るとこちらにも同じ位置に穴が開けられていた。武田さんによるとおそらく食糧を並べて保管するための棚が据え付けられていたのだろうとのこと。その昔、まだ冷蔵庫もなかった時代、ここに甕などが並べられていたのだろうか。使用人がここで味噌などを作っていたのだろうか。想像がふくらむ。

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反対側にはこんな掘り込みもあった。

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そしてかつて風呂場だったという洞窟は、今、薪の保管場所になっていた。

江戸時代に家に風呂があるのはごくごく一部の身分の高い家や裕福な家のみだったという。蒸し風呂だったのだろうか。どんなものが置かれていたのだろうか。あとで資料を探してみたい。

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ちなみにこの元風呂場だった洞窟の右端を覗き込むと、さらに地下へとつながるルートがある。今は瓦などの廃棄場所になってしまっているが、これが洞窟の下に掘られた水路のトンネルなのだそう。

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そして3つの洞窟と道の間の岩壁に掘られた2本の素掘りトンネル。母屋の敷地に隣接する馬小屋に抜けるトンネルだという。

わざわざトンネル掘らなくても、すぐ前には道があるのだからそこを経由して馬小屋に行けばいい気もするのだが、きっとそれだけ、トンネルを掘ることが特別ではなかったということなのだろう。

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その昔、手綱でひかれた馬がここを日に何度も通ったのかもしれない。

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このトンネルの一角にも穴があり、その下を通る水路が見えるようになっている。
トンネルの下にトンネルというのは本当にレアだ。

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下の水路はどのくらいの大きさなのだろう。

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馬小屋があったという場所も、山を切り込んで作ったような空間で、更にその奥に洞窟がある。おそらく貯蔵庫なのだろう。

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ひとつの敷地内にこれだけの数の素掘り洞窟・トンネル・水路が残る民家、他にはないんじゃないだろうか。

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ここも天井に堀り跡。
トンネルや水路を掘っていた専門の職人たちによるものなのか、それとも農閑期に村人などが掘ったものなのか。

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長屋門の右手には樹齢も相当だろうクスノキがあり、そのすぐ脇にも「穴」。

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これだ。洞窟や素掘りトンネルの下に掘られている水路のトンネルだ。思っていたよりずっと大きなものだった。この少し先が出口になっているそう。

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水路の上流部分も案内してもらった。
ここは建物の裏で、写真左側の斜面の上に畑があったそう。今は果物の木などが植えられている。

その斜面の下に水路のうちの1本が。

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斜面はしっかりと岩を積んで固められている。
水路の中には木製の杭も打ち込まれているそう。

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こちらは敷地西側に長く掘られた素掘りトンネル。
人が通るためのものではなく、水路だ。

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といってもこれだけの広さ。
ちょっとかがめば人が通れる。

いくら柔らかい地盤とは言え、これだけ掘るのは相当な労力がいる。養老渓谷の周辺などには水廻しのトンネルが多数残っているが、どれも山の合間の水田開発のため掘られたもの。こんな風に住宅の敷地の両脇に掘られたものを見るのは初めてだった。

いやー、すごい!!!

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「他の人にも活用してもらえたら」と武田さんが庭をオープンリフレッシュガーデン化して開放してくれているので、そちらも紹介したい。

武田さんのご好意によるものなので・・・

「絶対にマナー違反/迷惑行為はしないでほしい」

当然だが、他人の庭にゴミなどを捨ててはいけないし、歴史的価値も高い木造建築群が残る敷地内では火気厳禁だ。乾燥している時期ならタバコの吸い殻一本でも山林火災になる可能性があることを留意してほしい。

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長屋門。

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蔵。

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敷地の東側の斜面には竹林が広がっている。武田さんがここを整備して遊歩道を作り、散策できるようになっている。ハンモックを吊るしてしばしここでリラックスすることもできるという。

今回は時間がなくて素掘りトンネルを案内してもらうだけで終わってしまったが、次はここでお昼寝したい。竹林ハンモック、気持ちいいだろうなあ!!!

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武田さんお手製の案内マップも。

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そして長屋門の下に、自由に使っていいハンモックを並べた棚が設置されていた。

いやー、他の人たちのためにここまでするのがすごい。「世の中善人だけではない、そんなことしたら盗む人もでるのでは」と心配されたというし、正直私もすごく心配だ。

でも武田さんは、ここを利用する人たちの良識を信じるのだという。
少なくともこの記事を読んだ人達は、そんな武田さんの思いを裏切るような行為は絶対にしないでほしい。

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ハンモックを吊るせる場所も何か所も作られていて、大きなカラビナにハンモックの両端をとりつけるだけ。
長屋門の下で体験させてもらったが、実に心地いい風が吹き、目の前には田んぼや畑が広がり、里山風景を満喫できる。

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こんな風に座るハンモックでくつろぐこともできる。

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子供たちに大人気なのは、吊ロープの長さが異なるブランコ。
童心にかえって漕いでいるうちに・・・あれ?あれれ?となるので、ぜひご自身で体験してみて欲しい。

房総半島ドライブやツーリングの途中にここに立ち寄って、里山風景に囲まれたここでしばしリラックスするなんてのもいいだろう。

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もう一か所、歩いてすぐの山林の中に素掘りトンネルがあるというので案内してもらった。古民家敷地から道路挟んで反対側の畑の右手の道を進んだ先だ。

年貢を運ぶ、山越えしなくていいルートとして作られたのだという。

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それがこの素掘りトンネル。
地図にも載っていない道で、今はほとんど使う人もいないにもかかわらず、道もトンネルもきれいに管理されていてびっくり。手前の開口部は丸みを帯びているが・・・

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奥は長方形。
かなり高さもある。

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その先の道。

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奥の開口部も、落盤などなくきれい。

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素掘りならではの堀跡ごつごつした内壁。

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公道上に残る素掘りトンネルの多くが、内壁はモルタルで固められるなどしているので、素掘りのままのトンネルは貴重だ。

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「もし興味があれば」とサイト宛にメールをくださり、当日も実に細かく案内してくださった武田さん。おかげで本当に本当に貴重な体験ができ、オープンガーデンという社会的意義もある取り組みにも感銘を受けました。

本当にありがとうございました!

次はハンモックでお昼寝しに行きます♪