鴨川市北部の保台ダムから北東方向に延びる沢沿いの道、保台古道沿いに連続して現れる8本の素掘りトンネル群。途中、倒木が蓄積している場所ややや急な斜面もあり、長靴などの装備も必要。車やバイクで行く場合には保台ダムに停車することができるが、素掘りトンネル群をすべてまわる場合には、休憩時間も入れ4~5時間くらいは見たほうがいい。個性的で保存状態も非常にいい素掘りトンネル群はもちろんのこと、沢に転がる苔むした巨石や古い炭焼き窯など味わいある風景は非常に魅力的。
2008年に廃道探索サイトとして人気の「山さ行がねが」がレポートし、一躍有名になったとのこと。保台古道保存会によって整備され、表示板やトンネルプレートなども設置されている。
概要
住所 | 〒296-0045 千葉県鴨川市和泉(保台ダム) |
全長 | ─ |
建設時期 | ─ |
駐車場 | 保台ダムの駐車場利用 |
トイレ | 保台ダムに公衆トイレあり |
マップコード | 309 523 696*48 |
アクセス
君津から鴨川に向ける房総スカイラインを南下し、鴨川市街地に入る直前で左折して保台ダムに向かう。保台ダム駐車場に車・バイクを停めた後は徒歩にて保台古道を沢沿いに進む。地図はこちら(房総丘陵):ダム東岸の管理事務所から遠沢橋を経て「切り通し」「トンネル前」を目指す
関連記事リンク
- 山さ行がねが「道路レポート 保台清澄連絡道路」・・・人気の廃道探索サイトで、2008年に保台古道を紹介し一躍人気ルートにした読み応え抜群のレポート。序章から始まり第6話で完結する。
- スゴログ「#005 遠沢新道」・・・保台古道として多くの人が訪れるようになった遠沢新道の歴史的背景など詳細解説した記事。房総半島で炭焼きが盛んに行われていた時代の産業道路だったとのこと。
動画
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訪問レポート
<訪問日:2022年2月26日>
久々の素掘りトンネル巡りは、今までとは全く違う場所となった。
これまで訪れたのは、基本「バイクですぐ近くまでアクセスできる場所」で、多くは今も地元の方々の生活道路として使われている。
今回は未舗装ルートかつバイク停車した場所から数時間沢沿いの道を歩くという、簡単には辿り着けない素掘りトンネル群だ。山歩きなどもしない自分にとってはちょっとハードだったが、素掘りトンネル群はもちろんのこと、そこに至るまでの風景も本当に素晴らしく
「千葉にこんな場所があるなんて!!!」
と感動した。
企画してくれたのは、知人経由でご紹介いただいた茂垣氏。
MTBツアーやのネイチャーツアーなどを企画しガイドをされている方で、途中、風景を見ながら地形や植物、動物の話などもしていただきとても勉強になった。パーソナルツアーも受け付けてくれるということなので、もしこの保台古道など歩いてみたいという方がいたら、下記サイトをチェックしてほしい。
出発は保台ダム。
実は房総半島、中央部にはかなりの数のダムがある。
私の実家もある千葉北部は利根川のおかげで水に困ることはないのだが、中・南部は半島という地形上、長い川がなく、また柔らかい地質ゆえ川が深くえぐられやすく昔から水問題を抱え続けていた。
そのため小規模なダムが作られ、まるで龍のように谷間をくねくねとうねる人造湖がたくさん出来上がっている。
保台ダムは1998年竣工の比較的新しいダムで、総貯水容量は2740千m3。
亀山ダムや三島ダムのように幹線道路に面しているわけではなく、ダムで突き当りの道なので、今まで一度も来たことがなかった。
ダム周辺は整備された散策路になっており、展望台なども作られている。
スタート地点は、保台ダム管理事務所前の道を北上した先。前方で並んで歩く2人の陰になってしまっているが、そこに車進入禁止のゲートがある。
少し歩くと案内看板がでてきたが、地図があったと思われる場所は日焼けなのか色も飛んでいて全く見えず。ここに書かれた「ツリーハウス」の正体はこのYAMAP掲載レポートを参照のこと。
「保台古道入口」と書かれた案内標識。
設置したのは保台古道保存会なる団体で、ボランティアで道を整備し、こうした案内標識なども設置していたそうだ。
保台ダムの北側にはいくつもの散策ルートがあるようだが、素掘りトンネルに向かう保台古道はこの沢沿いの道。太平洋からも近い場所にもかかわらず、まるで内陸深くの山の中で源流を求めて歩いているかのような錯覚に陥る風景だ。
川が地面を深くえぐっている場所も。
苔むした石積みの構造物は炭焼き窯。
房総半島では江戸時代から製炭が盛んに行われており、この保台古道もそのために作られた道だったという。
●#005 遠沢新道|スゴログ - 日本の凄いトコロ、記録します。
保台古道の先には東大演習林が広がっており、この「日本最古の大学の森」にある森林博物資料館を訪れると、江戸時代の林業解説絵巻や木炭などの標本も展示されているとのこと。
沢沿いの道には巨石もゴロゴロ。
苔むしたところに木漏れ日が降り注ぎ、幻想的な風景が広がっている。
単なる沢沿いの自然散策路ではなく、その昔「道」として作られ活用されてきたことがわかる石積みがまたでてきた。
ところどころ硬い岩盤もあるようで、太い木の根が地表を這っている。2019年秋の台風では、こうした木が倒されて周辺の岩盤と一緒に崖下に落下して道をふさいでしまっていたところも結構あった。
ここにもまた石積みが。
今回ご一緒させてもらったメンバーの方々は、主催の茂垣氏以外にも廃道散策のベテランの方などもいて、「思っていたよりずっと歩きやすいね」とサクサク前進していった。「道はこっちかな」と言いながら進むが、正直、私には全く"道"が見えていなかった・・・
猪が掘り起こした場所とのこと。
地中の虫を食糧にしているのだそう。
倒木でダム状態になっているところも乗り越えて。
運動不足な私は、このあたりで段々足がプルプルし始めたんだけど・・・
この先に素掘りトンネルが待っていると思えば頑張れる。
普段訪れている素掘りトンネルが、格別にアクセスしやすい場所だったんだなとありがたみを実感した。
このやや丸みを帯びた岩は、上流から流されてきたものなのだろうか。
苔好きの人にとっても、たまらなく魅力あるルートだと思う。
突如現れた白蛇のような案内板。
川が蛇行してぐるっと回り込んでいることを示しているのか。
この個所で、沢沿いを進むのではなく左側の斜面を上がって尾根筋に向かった記憶。
すると現れる立派な切通。
左側に崖を見ながら進むと・・・
出てきましたよ!素掘りトンネルが!
将棋の駒のような形は房総半島に多いという観音彫り。
長さはあるけれど、ほぼまっすぐで反対側の開口部の光も見える。
記念撮影♪
今回は沢歩きということなので、いつものバイクジャケットの下にはレインパンツと長靴を履いてきた。
「一号隧道」との案内プレートが埋め込まれていた。
実際には対面せずに済んだけど、コウモリも生息しているそう。
さすが古道上の素掘りトンネルは、ワイルドさも格別。
剥き出しの内壁の一部は白い。
トンネル内で地層を楽しめるのは素掘りトンネルの醍醐味。
もちろん崖などでも見ることはできるのだが、素掘りトンネル内で見ると「地中」感もより強くワクワクする。
反対側の開口部。
トンネル前に少し土も体積していたが、こちらもちゃんと五角形がきれいに残っている。
そしてトンネルを抜けたら、いきなりこんな開けた展望が広がって、思わず「おおっ!」という声が漏れる。
別世界をつなぐトンネルにはいつもサプライズがある。
すぐに2つ目の素掘りトンネル。
こちらも五角形だが、中央がより尖った断面をしている。
反対側の開口部。
雄々しさも感じる。
そして次のトンネルもすぐに見えてきた。
3つ目はトンネルではなく自然の洞穴と言われても納得しそうな入口だが
近付いてみれば人工物なことがわかる。
反対側の開口部。
ひとつひとつ、全く異なる形をした個性的な素掘りトンネルだ。上からはつる性の植物や木の根なども伸びてぶら下がっていて、ジャングル探検気分も。
ただ探検はこの後に待っていた。
「えええ、ここを通るんですか!?」
と思わずひるんでしまった崖の細い道。
3個所ロープも打ち込まれているので、自分のようなド素人でも難所越えできるんだけど、足を滑らせたらかなりリカバリー大変なので緊張した。
再び切り通し。
五角形が最もクリアに残る4つ目の素掘りトンネル。
房総半島にこれだけ素掘りトンネルが作られた理由のひとつに、砂岩と泥岩が交互に堆積した柔らかい地質だったことがあるんだけど、それゆえ、特に開口部などはポロポロと崩れてしまっているものもある。
モルタル吹付などしているわけでもないのに何十年もの間こんなきれいな状態で残るというのは、すごいことだなと。掘った人達に見せてあげたいほどだ。
ここが四号隧道。
どの素掘りトンネルも、出口側(北側)は手前に土砂が少し体積していた。
歩いているとそれほど感じないのだが、緩やかな登り傾斜をずっとあがっているのだ。
5つ目。
ここも長さある。
真っ暗な素掘りトンネルから光が差し込む開口部を撮った写真が好き。
そして人物シルエットが入るとまたいい。
6つ目。
それにしても、よくこれほどたくさんのトンネルを掘ったなあと驚きだ。
六号隧道との案内プレート。
反対側の開口部。
トンネル上の地面はそれほど厚みもなく、さらにいうと斜面だ。ほんの少しルート膨らませれば別にこのトンネルは不要な場所ともいえる。それでも掘った当時の人達にあったら「なぜに?」と聞いてみたくなる。
ここも左右対称の五角形で、中央のとんがりの上に木が生え根を左右に広げているのが面白い。
その先のトンネルは、形にちょっと変化がある。
アーチ型だ。
・・・と思ったら反対側は違い、中央が乳首のようになった玉ねぎ型だ。
七号隧道。
反対側の開口部。
トンネルの上の地表が少しくぼんでいる場合、掘削前はそこが道(赤線)だったという可能性もあるようだ。ここもそうなのだろうか。
7つ目のトンネルからは少し歩いた。
自分達以外誰にも会わなかったが、それでも道には倒木などもなくとても歩きやすかった。
そして保台古道の素掘りトンネル群最後の8つ目。
内壁はごつごつしており、その文様はグロテスクさも感じるほど。
なんだか生き物の内臓の中のようだ。
いいなあ、このトンネルも♪
素掘りトンネルをすべて通過したところでランチタイム。
ベテランの方に「ヒル」の話なども伺う。冬なのでいないが、暖かくなれば沢やこうした道でヒルに刺されることもあり対策が必要とのこと。
ハイライトである素掘りトンネルも終えて後は帰るだけだなと思っていたのに、まだサプライズがあった。
崖をくりぬいて作った道。
ここも白い地層が剥き出しになっている。
木や炭を担いで、林業に従事していた地元の人達がここを行き交ったのだろうか。
昔のままの道を、今私たちはスマホでカシャカシャ写真撮影しながら歩く。古道散策の面白さを初めて知った。
車両通行止めゲートを通過してからちょうど3時間程で、再び「保台古道入口」という案内標識と出会い、舗装林道へと出た。
何のためかはわからないが、かなり広いエリアに渡って木が伐採され、重機も入れての整地が行われていた。
見晴らしも抜群。
いつの間にか高いところまできていた。
東大演習林を横切る関東ふれあいの道。
今回は保台古道を歩くことも大きな目的だったので保台ダムからスタートしたが、沢登りは避けてなるべく楽な道で素掘りトンネルへということであれば、県道81号の清澄寺バス停方面から林道経由で素掘りトンネルを目指すのもよさそう。見晴らしもいいルートだったので。
ただ割と早い段階にゲートが設置されていて、車・バイク乗り入れはできないようだ。
興味ある方は、下記レポートを参照のこと。
自分たちは車・バイクを停めている保台ダムに向かう必要があったので、途中から林道松森線─林道小倉松森道に。
こちらもゲートで完全にブロックされているので、車・バイクでの乗り入れはできない。
詳細地図はこちらで。
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本当に素晴らしいルートだったし、素掘りトンネルもひとつひとつ個性があり、時間さえあればもっとじっくり見たかった。自分一人では絶対に来れない場所だったので、連れてきてくれた茂垣氏とそのお仲間の方々には心から感謝している。
いつかまた同じルートを歩いてみたいし、その周辺の尾根沿いルートなども体験してみたい。